2002年7月2日 立命館宇治高校
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 立命館宇治高校はその名前の通り京都府の宇治市に学校があるのだが,野球部の練習場は学校にはなくて、滋賀県草津市の立命館大学草津キャンパス内にある。「京都から滋賀だと移動が大変だな〜」と思われるかもしれないが,立命館宇治高校のすぐ近くに京都と滋賀を結ぶ京滋バイパスという高速道路が走っており,これを利用すると10分も車を走らせれば草津市まで行くことが出来る。選手達は授業が終われば専用バスに乗り込み,毎日,草津キャンパスまで通っている。
 僕も選手達と全く同じルートで草津キャンパスを目指した。京滋バイパスを降りて更に10分ほど車を走らせたところに立命館大学草津キャンパスはあった。

 第1印象は「とにかく広い!!」
 車をガレージに停めて野球場を探すがとにかく広すぎて場所が分からない。たまらず守衛さんに「野球場は何処ですか?」と訪ねると「すいませんね〜。歩かれると遠いですよ〜」と丁寧に道を教えていただいた。

 駐車場から野球場までは歩いて約5分の距離。身を持って草津キャンパスの広さを実感する。
 4時30分過ぎ,ようやく野球場に到着。練習はすでに始まっていて,選手達はキャッチボールをしている。その様子をネット越しに見ながらグランド入口を目指していると、選手達はキャッチボールを中断し帽子をとって「こんにちは!!」と挨拶してくれる。
 「いやいや単なるマニアですからかまわずに練習続けてください・・」と恐縮してしまう。
 グランドに入り石川先生と久しぶりの再会。石川先生にお会いするのは昨秋の福知山成美戦以来のこと。近畿大会出場が絶たれた試合直後のことで「また頑張ります」と口を真一文字に結んだ厳しい表情でバスに乗り込まれた。
 石川先生はあの時とは別人のような柔らかい表情で「今日はどんどんグランドに入って写真を撮って下さい」と優しい言葉をかけてくださった。そのお言葉に甘えてズカズカとグランドに入り,写真を撮らせていただく。

 5時からシートノックが始まる。今年の3月に就任された貝塚新監督のノックバットから鋭い打球が放たれる。選手達は軽快にボールをさばいていく。
 続いて走者を置いて試合形式のノック。ノーアウト一塁,ノーアウト一二塁と状況が設定され、打球はどこに飛ぶか分からない。選手達は試合同様,緊張した表情でボールの行方に集中する。
 ノックバットからボールがはじき出される瞬間に各選手が一斉に動く。打球を追う者,中継に入る者,カバーに入る者。役割はそれぞれで違うが,9人の意識がひとつのボールに集まる。このシーンを見て当たり前のことだけども,野球ってチームプレーなんだと思う。
 ノックで目についたのがサードを守る2年生の日岡選手。昨年、守備では苦い経験をした日岡選手が「サードお願いします!!サードお願いします!!」と大きな声で積極的にノックを求める姿が印象的だった。


1時間の守備練習の後,野手陣はバッティング練習,投手陣は投球練習へと移る。選手達が協力してバッティングゲージを器用にセットしている。その手際のよさに感心しているとノックを終わられた貝塚監督が傍に来てくださり色々とお話を聞くことが出来た。まずはノックで印象に残った日岡選手のことを聞いてみた。
「日岡は守備のことで大分神経質になってますね。それが打撃にも影響してると思います」

 日岡選手といえば2年生ながら立命館宇治打線の中心的存在。打撃に専念させる意味でのコンバートなどは考えてないのだろうか?
「将来のある選手ですからね。大きくなってもらうためにもなんとかこの壁を乗り越えないと・・・」
「甲子園行けそうですか?」口にしてからくだらない質問をしてしまったと後悔する。しかし貝塚監督はそんな質問にも丁寧に答えてくださった。
「甲子園はひとつひとつの積み重ねです。高校野球,特に夏の大会は何が起こるか分からない。昨年,コーチをしていた熊本・有明高校は力があって私も自信を持って夏の大会に挑みましたけど初戦で全くのノーマークの学校に足元をすくわれた。私の現役時代もそうでした。(貝塚監督は東京の名門・日大一高出身)初戦で全く眼中になかった都立高校に9回まで0対1と崖っぷちまで追い込まれた。高校野球は本当に分からないんです」
 確かに高校野球では強豪校が明らかに格下と思われる学校に足元をすくわれることがよくある。それはどうしてなのか?

「やっぱり高校野球は精神的なものが凄く大きいです。例えば先制すれば安心して自分達の力を出すことが出来るんだけど,逆に先制されるとあせっちゃうんですね。最後の夏ということで負けたらどうしようって自分で自分を追い込んじゃう。普段の自分達の力さえ出せればね・・」
 僕たちファンやマスコミは「○×高校は打線がいい」とか「△◎高校は投手力がいい」とか技術だけを見て、どこが強いなどと予想をたてている。しかし持っている力や技術を本番の舞台で出すというのはとてつもなく難しいものなのだということを貝塚監督に教えてもらった。

 続いて石川先生にも話しを聞かせてもらった。まず驚いたのが練習時間の短さ。この素晴らしい練習環境を見て、さぞや毎日遅くまで練習をしているのだろうなと思い込んでいたが、普段の練習時間は約3時間程だという。野球部員の中には学校近くにある寮に入っている生徒が多く、寮の食事時間の関係で7時半頃までには練習を終わらないといけないという。
「私学で練習時間が3時間なんてウチ位のもんじゃないですか?」と苦笑いされていた。
 練習時間だけではない。毎週月曜日は練習自体が休みと聞いて更に驚いた。
「授業の提出物など色々ありますから。生徒も野球と勉強の両立が大変なんです」
 京都の強豪校で甲子園にも出場した人に話しを聞いたことがあるが、その野球部は練習が休みといえば元旦ぐらいのもので、練習が終わり家に帰るといつも日付が変わっていたとのこと。
 その話と比べると立命館宇治の練習時間はあまりにも短い。それでどうしてあれだけの好成績を残すことが出来るのだろう?
「選手が色々と自分達で課題を持って練習してるからじゃないですか」

 確かに練習を見ていて思ったことは、選手それぞれが課題を持って練習に取り組んでいるということ。ダイヤモンド内では2箇所に分かれてのバッティング練習が行われているが、そのすぐ後では、各選手がスペースを見つけてはそれぞれの練習を行っている。トスバッテイングをする者、ゴロの捕球動作を何度も何度も繰り返す者、筋トレする者。監督や部長に指示されるまでもなく自分達で課題を見つけて克服しようとしている。まるでプロ野球のキャンプを見ているようで大人のチームだなという印象を受けた。


時刻は午後7時30分。普段ならこれで練習終了の時間だが、今日は4日間の日程で行われる強化合宿の初日。選手達はここ草津キャンパスに泊まり込んで最後の調整を行う。
 というわけで選手達は大学内にある食堂で夕食の時間。僕も石川先生に同行させていただき、夕食までごちそうになってしまった。ホント、ごちそうさまでした。
 夕食を食べながら西川主将と話をすることができた。西川主将は1年生の頃から主力として試合に出場。同じように旧チームから試合に出ていた平安や福知山成美の現3年生とは甲子園を目指すライバルとして同じ3年間を過ごしてきた。やはり彼らのことは気になるのだろうか?
「気にはなりますけど組み合わせでは反対のゾーンに入ったし・・。それよりもやはり1戦1戦です。先のことよりもまず目の前の試合に勝つことに全力を傾ける。その結果が甲子園に繋がると思います」
 西川主将が1年生の秋、近畿大会初戦で関西創価に敗退。昨夏が決勝戦で平安に敗退。そして昨秋は府大会準決勝で福知山成美に敗れた。甲子園に手が届きそうで届かない。その原因はどこにあるのだろう?と少し意地悪な質問をしてみた。
「どうしても勝負以外の雑念が入ってしまうんです。先を見てしまうというか・・。昨秋の二次戦がそうでした。準々決勝の京都学園戦は試合だけに集中することができた。でも準決勝の福知山成美戦では、これに勝てば近畿大会に行けると思ってしまった・・」
「やっぱり1戦1戦なんです」西川主将はきっぱりとそう答えてくれた。

 前評判の高い学校以外で強いと思う学校は?と聞いてみると間髪を入れずに京都韓国学園の名前を挙げてくれた。この質問は貝塚監督、石川部長にも聞いてみたのだが、二人の答えも京都韓国学園だった。
「投打とも荒削りだけど力があります。それに春季大会で対戦した時、凄い気迫を感じた。僕達はなぜか優勝候補と言われるけど、京都韓国学園の選手達には優勝候補を倒してやろうという気迫があった」
 石川先生は、京都韓国学園は必ずここ数年の間に上位に顔を出すチームになると言っておられた。
 最後の質問。甲子園ってどんなところだと思う?
「そうですね〜。多分、フワフワとして地に足がつかないんじゃないかな・・・。行ってみたいです!!」

 食事を終えた選手達はグランドに戻って練習再開。静かになった食堂に4人の女性マネージャーが残り、あまったご飯で夜食のおにぎりをつくっていた。彼女達は全員3年生。女性マネージャーは採用しないという方針をとっていた立命館宇治が初めて入部を認めたのが彼女達だった。
 マネージャーで一番大変な仕事は?
「う〜ん、人それぞれだけど、私は夏前のデーター整理かな」
 ライバル校の試合を撮影したビデオは全部で100時間を軽く越える量になるという。彼女達はそのビデオを何度も何度も再生、一時停止を繰り返しながらデーターをノートに書き込んでいく。彼女達が作成するデーターは立命館宇治の大きな戦力となっている。
 選手達に腹立つことってどんなこと?
「周りのことを考えないで自分勝手な行動をした時」(だそうです。選手のみなさん気をつけてくださいね)
 あと1歩が勝てない原因って何だと思う?
「長所でもあるんだけど、先輩後輩の仲が良すぎることかな・・。もう少し厳しさがあってもいいかなって・・」
 一番モテるのは誰?
「う〜〜〜ん、(数秒の沈黙)西川くんかな・・・・。キャプテンだし4番だし・・」
 最後に顔見たら選手達には言えないけどホームページを通じて選手達に言いたいことってある?
「え〜〜!!」(みんな困ったように顔を合わせ、ひそひそ話。そして4人一斉に声を揃えて)
「私達を甲子園に連れて行ってください!!」
 1年生の頃は形や大きさがばらばらだったというおにぎりだが、お皿の上には綺麗な三角の形をしたおにぎりがおいしそうに並べられていた。

 照明に照らされたグランドで選手達の練習は続いていた。西川主将が後輩捕手にスローイングの指導を行っている。マネージャーの話では仲が良すぎるということだったが、3年生としてキャプテンとして後輩に自分の持っているものを伝えようとする西川主将の姿は、とても高校生とは思えないほど大人びたものだった。
 時計の針は10時を回っていた。石川先生に練習は11時までですか?と聞いた。
「11時に終わってくれればいいんですが・・。放っておくといつまでも練習を続ける奴等なんです。困ったもんです」
 その言葉とは裏腹に石川先生の顔には満面の笑みが浮かんでいた。 

 


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