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2004年6月17日 山城高校 |
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グランドへと向かう通りには様々なクラブの部室が並んでいた。平屋建ての古ぼけた建物が伝統を感じさせる。 学生たちはギターを弾いたり、わざわざテーブルを持ち出して、外で麻雀をしたりしている。 そんな自由な雰囲気が漂う通りを抜けると広大なグランドが現れた。ホームベース付近にはすでに選手たちが集まっている。これから練習が始まるようだ。
選手たちの帽子が2種類に分かれている。白の帽子を被っている者と青の帽子を被っている者。 平安などは学年によってストッキングの色が分けられているが、目の前のチームはそのような意味合いで帽子の種類が分けられているわけではない。 白の帽子を被った者が山城高校硬式野球部の選手たちで、青の帽子を被った者が京都府立大学硬式野球部の選手たち。 帽子の違いは学年の違いではなく、同じグランドに2つのチームがいることを意味している。
植物園のすぐ東隣にあるこの広大なグランドは、京都府立大学の敷地内にある。中京区にある山城高校の野球部員が、なぜ左京区にある京都府立大学のグランドで練習をしているのか。理由はこうだ。 5年前に山城高校はグランドの改修工事を行った。工事の間、野球部は練習場を失った。 困った手島監督は、実家のうどん屋によく顔を出していた当時の府立大学野球部の主将に相談した。手島監督の実家は府立大学のすぐそばにある。 その主将は嵯峨野高校の水泳部出身。嵯峨野高校にはプールがなく、高校時代はよく山城高校のプールで練習をさせてもらった。 手島監督に相談を受けた主将は、高校時代の恩を返すいい機会だと、ぜひうちのグランドで練習をしてくれと言ってくれた。そんな経緯があって、山城野球部は府立大のグランドで練習が出来るようになった。 選手たちは授業が終わると自転車に乗って府立大のグランドへと移動する。移動には相当の時間が取られるが、サッカー部やラグビー部などに遠慮をしながら練習する事を考えれば、広いグランドで思い切り練習が出来るほうが、遥かにメリットがあるという。
夕方の4時に始まった練習は、まずはフリーバッティングが行われた。スローカーブとストレートのマシンに、バッティング投手の計3箇所。それぞれのゲージで約7球を打てば、次のゲージへと移動する。山城、府立大の選手たちが入り混じってボールを打つ。 選手たちの数は山城の方が圧倒的に多い。山城の野球部はマネージャーを含めて43人。府立大の野球は20人に満たないという。 府立大野球部は決して強いチームではない。野球部の予算も少ない。ピッチングマシンやゲージなどは山城側が持ち込んだ。そのマシンを府立大の選手たちも使う。 それぞれに足りない部分を補いながら、帽子の違う2つのチームの野球部が練習を進めていく。
府立大野球部には大学ではじめて野球を経験する学生も多い。練習を見ていると技術的に未熟な学生もいる。山城の選手が簡単に成功させていたマシンのバンド練習で度々空振りをする。 しかし、そんな府立大の野球部のすぐ傍で練習をさせてもらう事で、多くの刺激を受けると山城の選手たちは言う。その意味は何となく分かるような気がした。 僕は高校野球は恵まれていると思う。試合結果は大きくマスコミに取り上げられるし、保護者、学校の期待も大きい。ファンの感心も高い。 それに比べると、大学野球、特に府立大のように決して強いとは言えないチームは、そのような恩恵を受けることはない。 大学生ということで遊びたい時期でもあるだろう。それでも彼らはグランドに出て野球をする。高校生が簡単に決めるバンドを失敗しながらも練習を続ける。それは彼らが本当に野球が好きだという事に他ならない。 注目をされていなくても、下手くそでも、ただ好きというだけでボールを追い続ける府立大の選手たちを見て、きっと山城の選手たちは何かを感じ取っているのだろう。 夏の大会には府立大の選手たちは、山城の応援に駆けつけるという。山城の選手たちも府立大の応援に駆けつける。 補い合っているのは施設や設備だけではない。帽子の違う2つのチームは、野球というスポーツを通じて繋がり、互いに刺激をし合っている。
6時からはノックが始まった。ライトを守る選手の足取りがおぼつかない。手島監督の声が広いグランドに響き渡る。 「一直線に走って回り込んで捕球しろ!落としてもいいから打球を追い越せ!」 そのアドバイスを学生服を着た生徒達がノートにメモしている。なぜ彼らは練習に参加しないのかとマネジャーに尋ねると、学校生活の中で決められた事が出来なかったから練習をすることを禁止させられているという。 「でもどこのチームでも、こういう事はあるんでしょう?」 とマネジャーは優しく笑う。 バックネット裏の机では1人の生徒が教科書とノートを開いている。彼はテストの成績が良くなかったということで、グランドで勉強をさせられている。 グランドには緑が多く、動いていないと蚊によく刺されてしまう。マネージャーは何も言わずに勉強をする選手の傍にそっと蚊取り線香を置いた。
7時になって府立大の選手たちは練習を終了しグランドを後にする。しかし山城の練習は続く。走者を置いてのシート打撃。練習は20時過ぎまで行われる。 それからグランドを整備して、また自転車に乗って中京区の学校まで帰り、そして帰宅する。 「それで勉強をしろというのは、なかなか難しい事なんですがね」 と手島監督は苦笑いする。 聞く人によっては、これを苦労だと捉える人もいるかもしれない。しかし僕は、山城の選手たちは恵まれていると思う。そして選手たちの表情も、このグランドで練習が出来ることが嬉しくて仕方がないといった感じに見える。 練習を見に行く前にマネージャーからこんなメールを貰った。 「練習を見ていただけるなら府立大のグランドでの練習を見て欲しいんです。府大の方との練習は野球以外の部分でもすごい勉強になるんです。府大の野球部は山城野球にとても重要な存在なんです」
このような大切な存在が持てる山城野球部は、やはり恵まれていると言えるのだろう。
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