2004年6月30日 京都成章高校

写真をクリックすると大きくなります

国道9号線を西に向いて車を走らせていると、洛西ニュータウンの入り口あたりで白いユニフォーム姿でランニングをする野球選手を見つけた。
真っ白なユニフォームの背中にマジックで大きく名前が書かれてある。その名前に見覚えがあった。恐らく京都外大西の選手に違いない。
京都外大西の校舎から練習場である西山グランドまでは相当な距離がある。授業が終わると選手たちはバスに乗り込んで西山グランドへと向かうのだが、選手の中にはランニングで練習場へ向かう者もいるらしい。目の前の選手もそのうちの1人なのだろう。
距離もさることながら、西山の勾配はきつい。僕の記憶に間違いがなければ走っている選手は1年生の投手のはずだ。この走り込みが強靭な足腰を作るのだろう。

京都成章は西山を約100メートル登ったところにある。西山グランドはこの西山の頂上にある。つまり京都外大西はライバル京都成章を見ながらグランドへと向かうわけだ。
西山グランドへは何度も足を運んでいるが、京都成章の門をくぐるのはこれが初めてだ。玄関で奥本監督を待つ間、ガラスケースに飾られてある各クラブのトロフィーを眺める。その中に木製の盾があった。
盾には墨字で「第80回全国高等学校野球選手権記念大会 準優勝 朝日新聞社」と書かれてある。
高校野球ファンにとって京都成章のイメージといえば、エクスポズ・大家の母校であり、そして80回の夏に、あの松坂大輔にノーヒット・ノーランを喫した準優勝校という事になるのだろう。

バックネットのすぐ裏にある監督室の壁には、その80回の夏の写真が飾られている。
「遠い過去の栄光ですけどね」
と奥本監督は苦笑いする。あの80回の夏からもう6年が過ぎた。あの夏以来、京都成章は甲子園の土を踏んでいない。確かに奥本監督の言うとおり、あの夏はひと昔前の思い出になりつつある。
しかし、あの夏を見て、京都成章に憧れを覚えた野球少年たちの気持ちは色褪せることはない。準優勝の翌年から一気に入部希望者が増えた。そしてその数は未だに衰えることはない。
現在の部員数は89人。専用グランドを持たない野球部はラグビー部など他のクラブとの兼ね合いで1日置きでしかグランドを使うことが出来ない。
そのグランドも決して広くはない。広くないと言うよりも正直言って狭い。その狭いグランドに89人の部員が所狭しと散らばる。
「これだけ部員がいるのにグランドがこの狭さでしょう。なかなか集中して練習をする事は出来ません。それに昔と比べると、選手1人1人とじっくりと対話するという事も難しくなってきました」

本音を言えば部員数を制限する事も考えないこともない。しかし、なるべくそれだけはしたくないと奥本監督は話す。
「成章野球部に憧れて入ってきてくれる子供たちですから・・・」
限られた環境の中で、いかに工夫をしていくかが京都成章野球部のスタイルだという。そのスタイルを貫き通した事があの夏に繋がった。
そしてあの夏が野球少年の心を掴み現在の状態となった。だとするならば、この状況の中でいかに効率的に練習を出来るかを考える。それこそが京都成章野球部の伝統を築き上げていく事だと奥本監督は信じているのだろう。

授業は7限目まであり、練習開始は4時から。アップ、キャッチボールの後、ノックが始まった。
ノッカーは松井部長。奥本監督は桃山高校時代、強打者として鳴らし、3年の夏には大会史上初のサイクル安打を記録した。バッティングが大好きで、豪快な打撃のチームを作りたいという気持ちはあるが、桃山野球部の後輩である松井部長に「高校野球は守備が大切です」とたしなめられるという。
松井部長は現役時代にショートを守っていた。だから守備練習が好きだという。活き活きとした表情でノックの雨を降らせる。

ブルペンでは投手陣が投げ込みを行っている。サウスポー・柏木のボールの切れがいい。巨人・岡島のように下を向いてボールを投げ込むフォームも健在だ。
6時からはバッティング練習が始まった。バッティング投手とマシーンの2箇所で行われる。バッティング投手は右投手でストレートと変化球を交互に投げ込み、カーブマシーンも右投手の角度に設定される。
「組み合わせで右投手の多いゾーンに入りましたから。それに夏は変化球を打てないと勝てません」
その変化球を各打者は反対方向へと打つ。反対方向へ打つ事を意識し過ぎて当てるバッティングになるとすぐさまに奥本監督の指示が飛ぶ。
「足を踏み込んで手首を返して右中間に運べ!!」
要は当てるのではなく、力強くボールを叩けという事なのだろう。スラッガー・奥本の片鱗を見た気がした。

バッティング練習は1箇所で10球ずつ。打席に入らない選手たちは鳥かごに入って打ち込んだり、グランドに隣接するスタンドで素振りをしたり、守備に就いたり、走者となってスタートを切る練習などをしている。狭いグランドの中で、大所帯のチームは色々な工夫をこらしながら練習を進めていく。

最後にこの夏のキーポイントとなる選手を聞いてみた。
「バッターは江畑がポイントになるでしょう。得点圏打率はかなり高いですから、彼の勝負強さに期待します」
「投手の中心はやはり大島君ですか?」
そう問うと奥本監督はニヤリと笑った。
「ブルペンで見てもらった通りです。村上、良くなったと思いませんか?」
1年生の秋にエースナンバーを背負い、平安の服部に投げ勝ち、秋の近畿大会を経験した右腕は、故障から長いスランプに陥っている。
「やはり何か雰囲気を持った投手ですよね」
「僕もそう思うんですよね。最後には復活してくれるんじゃないかって期待してるんですけどね」
奥本監督のその期待がなぜか嬉しく感じられ、僕も顔をほころばせながら帰路に就いた。

 


BACK