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2003年12月7日 西城陽高校 |
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13時から始まった練習は、まずはたっぷりと時間をかけてのアップが行われる。選手たちの動きを見て、平安のアップと似ているなと思っていると、僕の気持ちが見透かされたのか、南條監督が、 「平安とよく似ているでしょう。同じ運動生理学の中田先生に指導してもらってるんですよ」 と教えてくれた。
京都の勢力図は昔から私学優位であったが、ここ数年、特にその傾向が強くなっていて、公立高校は甲子園出場はおろか、上位へ進出することさえも難しい時代になっている。 その中にあって、西城陽は平成6年夏にヤクルトの河端投手を擁して甲子園に出場。その後も、度々上位進出を果たしていて、今年の秋季大会でもベスト8に進出した。
西城陽には各学年に1クラスずつ体育課がある。そのことは確かに他の公立高校と比べて有利であると言えるかもしれないが、それでも周囲が思うほどその恩恵があるわけではない。 体育課の生徒は1学年に約40名。そのうちの半分は女子生徒だから男子生徒の数は20名。西城陽は他のクラブも盛んなので、20名のうちで野球部に所属する生徒は数えるほどしかいない。 西城陽の強さの秘密は何か。たった1度練習を見ただけでそれが分かるはずもないが、少しでもその秘密を感じられればと選手たちの動きを追った。
アップの次はキャッチボール。20分間のキャッチボールの後はロングティーが始まった。 「トップから最短距離でバットを出すフォームを覚えさせます。最短でバットを出してボールを強く叩いてスピンのかかった打球を打つ。これが出来ればギリギリまでボールを呼び込めることが出来ます。これが出来ないと変化球に対応できません。夏の大会は変化球が打てないと勝てませんから」
例年なら冬明けに始めるというこのロングティーを今年は12月からスタートさせた。昨年、今年と2年続けて夏の大会では打線が波に乗れずに敗れている。その反省が、この練習のスタートを早めさせるきっかけとなっているのだろうか。 ロングティーは木製バットか竹バットを使うよう指示があったが、ある選手が勘違いして金属バットを手にしている。ボールを叩くと、 「カキーン」 と金属音が響き渡った。部員たちの動きが止まり、視線が一斉に集まる。金属バットを握っていた選手はその視線で間違いに気付き、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべながらバットを取り替えていた。
ロングティーが1時間30分行われた後、3時20分からはノックが始まった。 「このチームの課題は守りです。特に送球が不安定でベンチでいつも冷や冷やしています。送球を安定させようと思ったらいい形で捕球をして送球の動作に移らないといけない。その形を覚えさせるのがこの練習の目的です」
ノックは4ケ所に分かれて行われる。1グループに4人が入り1サイクル15分間だ。5分前になるとストップウォッチを握った女子マネジャーが知らせる。 10日間の試験休みが終わって練習を再開したのがつい昨日のこと。まだ体力が戻っておらず、この頃になると選手たちの足がふらついて打球を後ろに逸らしたり、悪送球が多くなってくる。 「あと5分って言うてからもう70分はたったで!!」 息を切らしながらの冗談に笑が起こり、その笑いが雰囲気を盛り上げる。試合中の明るいパフォーマンスが印象的な西城陽だが、普段から明るい雰囲気の中で練習が行われているようだ。
ようやく15分が終わると、グランドに散らばったボールを全員で拾い集め、次のグループがスタート。これを2サイクル終えた時点で時間は5時となり、すでに陽はすっかりと落ちている。 グランドには照明設備がないためにここでノックは終了。練習の最後はサーキットトレーニングで締められる。 各ベース付近で4種類、それぞれに腕立てや背筋などのメニューが決められていて、ホームベースでのメニューを終えると一塁ベースへ移って次のメニューをこなしていく。今年の冬は暖かいが、選手たちの吐く白い息が、そろそろ本格的な冬が近づいていることを感じさせた。
クールダウンのストレッチが終わり、選手たちが三塁側のベンチ前に集まる。 「自分の中で限界を作るな」 と南條監督のミーティングが始まった。 「10割を打てるバッター、防御率0点の投手が揃えば試合には絶対に勝てるんだ。だったらそういう選手を目指すべきだろう。この辺で充分だろうと思った時点で成長は止まってしまうぞ。 今日のノックでもそうや。15分間のうち、9割はミスなく処理できた。それで満足したら駄目だ。試合の中で5本の打球が飛んできて、そのうち4球を完璧に処理しても残りの1本をミスしてしまったら、その1本で試合が決まってしまうかもしれない。 絶対にミスをしないという気持ちで練習に挑まないと試合の大切な場面で必ずミスが起きてしまう。練習のために練習をしてるんじゃない。試合のために練習をしているということを忘れるな」
今西主将が最後に声をかけて練習は終わった。選手たちが去ったグランドで南條監督に話を聞かせてもらった。 「例えば勝つことだけを考えるならば、レギュラーの子供だけを徹底的に練習させるという方法もあります。でも公立高校ではそういう事はできないし僕もしたくない。それに僕自身に選手をプロに送ったり、甲子園に出場させるような器量もありません。ただ選手たちと野球を楽しんで、その中で何か感じ取ってくれたらなという思いでやっているだけですよ」
グランドはもうすっかりと闇に包まれていて、遠くで京奈和バイパスの明かりが光っている。 「でもその限られた中で、当然、甲子園を目指すという気持ちは持っておられるわけですよね?」 「それはもちろんです。強豪に一泡吹かせたいという気持ちもあるし、甲子園を狙いたいという気持ちは当然持ってますよ」 ニヤリと南條監督が笑った。
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